CASE STUDY | PRODUCTION × STRATEGY

浜名湖うなぎ「でしこ」

地域が育てた「美味しさ」の再定義と、未来へつなぐデザインの記録

クライアント
浜名湖養魚漁業協同組合
担当領域
ブランディングプロデューサー(全体マネジメント+動画制作)
期間
2024年6月〜継続中
  • Makuake応援購入1,533万円うなぎ関連で日本一
  • 支援者数約953名目標比 約307%
  • デザイン評価Good Design賞2025年度受賞
  • メディア露出多数各種メディアで紹介

浜名湖は、日本で初めてうなぎの養殖に成功した「養鰻発祥の地」です。125年の歴史を持つこの産地は、稚魚価格の高騰と養鰻家の激減により「産地消滅」の危機にありました。filmentsはブランディングプロデューサーとして、新ブランド「でしこ」の全体設計と動画制作を担い、地域の生産者・組合・料理人とともに、価格競争を超えた高付加価値ブランドづくりに伴走しました。

01 | BACKGROUND

産地消滅の危機 ― なぜ「でしこ」が必要だったか

明治時代に日本で初めて養鰻に成功して以来125年、浜名湖は国内随一の生産地として養鰻文化をけん引してきました。しかし安価な海外産の流入、2014年のニホンウナギ絶滅危惧種指定、2023年の漁業法改正による供給競争の激化が重なり、シラスウナギ価格は2023年に1キロあたり200万円を突破。かつて400軒以上あった養鰻場は27軒にまで減少しました。組合は「量で勝負する大量生産」から「質で勝負する超高付加価値型ブランド」への転換を決断します。

このままでは、浜名湖のうなぎ文化が終わってしまう

02 | OUR ROLE

なぜ「地元の」プロデューサーだったか

組合は当初、全国的な専門家にも助言を求めましたが、現場の温度感に合うアドバイスには出会えませんでした。転機は、浜松パワーフード学会・秋元健一会長との対話でした。

地域の食文化は、地域の手で守るべきだ。

― 浜松パワーフード学会 秋元健一 会長

この言葉をきっかけに、filments深瀬とARROW鈴木が参画します。ブランドづくりには時間がかかる。だからこそ、すぐ現場に足を運び、関係者と対話を繰り返せる地元のクリエイターこそがふさわしいという判断でした。浜名湖(生産地)と浜松(消費地)が鉄道で8分という近さにあり、養鰻家・目利き職人・料理人が距離的にも心理的にも近い関係を築いてきた ― この地理的近接こそが文化の礎でした。

03 | KEY DECISIONS

ブランドを形づくった二つの意思決定

01

最大の差別化要素「メス」を、あえて打ち出さない

当初の主題は、大豆イソフラボン由来の餌による「メス化」技術でした。しかし鹿児島や愛知・一色など他産地でもメス養殖は広がっており、「メス」は競争優位にならず埋没する。そう考え、あえて前面に出さない方針をとりました。

メス化は、あくまできっかけに過ぎない。その後、美味しいうなぎに育てあげるのが、俺たちの腕の見せどころなのではないか

― 養鰻家
02

名前を捻り出す前に、ミッションを言語化する

ネーミングは難航し、関係者から200件超の案を公募しました。一方でデザイナー鈴木は核心をこう捉えていました。

言葉が決まらないのは、まだ自分たちの歴史や哲学、想いが言語化されていないからではないか

― デザイナー 鈴木裕矢(ARROW Inc.)

そこで先に、浜名湖養鰻のミッションを言語化します ―「伝統を守り 進化を続け 幸福を届ける」。それは125年の土づくり・水づくり・人づくりを表した、養鰻家自身の言葉でした。この言語化があって初めて、公募の中の一つの響きが意味を持ちます。「で=伝統を守り」「し=進化を続け」「こ=幸福を届ける」。先にミッションを言語化したからこそ、名前が後から必然として見つかった ― この順序こそ、設計の核心です。

伝統を守り
進化を続け
幸福を届ける

04 | WORLD VIEW

一瞬で「食べたい」と思わせる世界観

SNS全盛期に一瞬で価値を伝えるため、3つのキャッチコピーを役割分担で設計しました。キービジュアルは定番のうな丼写真ではなく、浜名湖・弁天島の夕景と脂のしたたる蒲焼。「風景で語るうなぎブランド」として文化と風土の重なりを表現しました。

浜名湖、最高傑作。

まず目を引く自己表現

伝統を守り、進化を続け、幸福を届ける。

思想を表すミッションコピー

肉厚柔らか、脂のり極まる。

味覚的価値
  • 96%身の柔らかさ「柔らか」評価従来比で大幅に改善
  • 21.6g → 28.6g脂質肉厚・脂のりを数値で実証

05 | STORY BOOK

プロデュースの中核 ― ストーリーブック

ロゴや単発の販促物だけでは、125年の歴史も、メス化という科学的背景も、生産者の挑戦も伝わりません。filmentsはこれらを1冊のストーリーブックに編集し、ブランドの世界観を手渡せる形にしました。商品には「でしこの物語」と「食べ方のしおり」を同梱し、単なる贈答品ではなく、背景にある物語ごと楽しんでもらう"食体験"として設計しています。

06 | MAKUAKE

Makuakeで「日本一」を獲りにいく

高付加価値を成立させる鍵は「認知度 ≫ 供給量 = 高価格」という構図づくりでした。その第一歩としてfilmentsが掲げたのが「クラウドファンディングで日本一を目指す」こと。資金調達だけが目的なら目標超過で十分ですが、「うなぎ関連で日本一」という称号自体がその後の説得材料になる ― そう判断し、狙って獲りにいきました。応援文化が根づく浜松の気質も追い風に、支援総額1,533万円・約953名、うなぎカテゴリーで日本一を達成。支援者の約1/3が地元、約2/3が首都圏で、地元の郷土愛が首都圏へ広がる「同心円状の波及」が実証されました。

CREATIVE

Makuakeで展開したクリエイティブ

商品の魅力・125年の歴史・つくり手の想いを、一枚ずつのビジュアルに落とし込みました。支援者の心を動かしたページクリエイティブの一部です。

07 | VIDEO

購入不安への責任と「幸福を届ける」信念

高価なうなぎは「失敗したくない」という心理が購入の最大の壁になります。filmentsは「こ=幸福を届ける」という約束に責任を持つため、でしこの食べ方・調理動画を制作しました。これは販促物ではなく、購入前の不安を解消し、購入後の体験まで品質を担保する仕掛けです。動画を「認知のための広告」ではなく、成約率と再購入率に効く「購入体験の設計物」として位置づけたこと。さらに東京・赤坂の高級鰻店での採用につながったきっかけの一つもYouTube紹介動画でした。

01

料理動画があるから安心して買えた成約率

02

買った後に美味しく食べられた満足度

03

だからまた買ったリピート / LTV

でしこブランドを支える生産者・料理人・地域の共創の様子
養鰻家・流通・料理人・地域が共創するでしこのエコシステム

08 | CO-CREATION

地域を巻き込む共創エコシステム

「でしこ」の浸透は、養鰻家・流通・料理人それぞれの声を拾い、ブランド設計に反映する地道な調整の積み重ねでした。BtoBでは価格中心の量販店に対し「価格ではなく想いで選ばれるブランド」を掲げ、ストーリーの伝わる営業資料・販促ツールを開発。お土産売り場では火が使えない制約に対し「蒲焼の香り」自体をデザインする施策まで行っています。料理フェアは競争形式を排し、失敗も共有する学習共同体として設計しました。

08.5 | FOOD FAIR

「新作料理発表会」を、企画からまるごと

「でしこ」を地域に根づかせる施策のひとつが、地元の飲食店が "でしこ" を使った新作料理を披露する発表会です。filmentsはここで、特設サイトやショート動画といった制作物だけを担ったのではありません。イベントそのものの企画立案から、参加してくれる飲食店一軒ずつへの声かけ、料理人への趣旨説明と調整、当日の運営、そして魅力を広げる特設サイト・ショート動画の制作までを、一気通貫でプロデュースしました。

「で=伝統を守り」「し=進化を続け」「こ=幸福を届ける」というブランドの思想を、料理人それぞれの一皿として地域に手渡す。発表会は、でしこの世界観を "食べられる体験" として街に広げる場になりました。動画やWebをつくるだけでなく、人を集め、巻き込み、場を動かすところまで踏み込めるのが、filmentsの伴走です。

09 | FUTURE

未来へ ― でしこはまだ始まったばかり

プロジェクトは行政・観光・金融機関へと連携を広げています。filmentsは生産現場のDX(飼育日誌の電子化)やGX(藻場再生)も中期ロードマップとして提言。かつて「海のゆりかご」と呼ばれた浜名湖の再生まで視野に入れています。

『幸福を届ける』とは、お客様だけでなく、養鰻家・流通・料理人、そして地域に住むすべての人々に感謝を届け、幸福を還元すること

― 統括本部長 小川博之

地域を代表するブランドづくりに携われる機会は、そう多くありません。この経験で得た知見を一社の実績として閉じるのではなく、再現可能なノウハウとして他の地域・産業へ広げていきたいと考えています。filmentsが提供できるのは、地域資源を読み解く設計力、世界観を伝える動画制作、そして購入体験まで責任を持つ実行の伴走です。

企画・監修
浜松LAB
プロデュース
filments 深瀬
デザイン
ARROW 鈴木裕矢
ARROW株式会社 クリエイティブディレクター 鈴木裕矢 氏
鈴木 裕矢/ARROW株式会社

CREATIVE PARTNER

ARROW株式会社との協働プロジェクト

本プロジェクトは、ARROW株式会社のクリエイティブディレクター・鈴木裕矢氏とのチームで取り組みました。filmentsがプロデューサー兼・動画制作を担い、ディレクションやデザイン、キャッチコピー、Webサイト制作はARROWが担当。互いの強みを持ち寄り、ブランドの世界観を細部まで設計しています。

filments
プロデュース/動画制作
ARROW株式会社
ディレクション/デザイン/キャッチコピー/Webサイト制作

次の100年に残る、地域のブランドを

地域資源を読み解く設計力と、世界観を伝える動画制作で伴走します。

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